電波防護指針値の適合性評価技術に関する研究

NICTでは無線機器に対する電波防護指針適合性評価技術に関する研究を進めています。特に、携帯電話を含むUHF帯の無線端末使用時における頭部SAR測定装置の不確かさ評価やSARプロ−ブ較正装置を開発し、適合性評価手法の標準化に貢献しています。

また、VHF帯における電波防護指針の適合性評価では、足首誘導電流の評価も必要となります。そこで、足首誘導電流の測定方法についても研究を進めています。

比吸収率の測定・較正に関する研究

携帯電話に関する国内の法的規制

現在、日本で市販されているすべての携帯電話は、平成14年から電波防護指針に基づいて比吸収率(Specific Absorption Rate: SAR)を測定することが法律で義務づけられており、安全基準に適合しているかどうかが検査されています。携帯電話のSARの測定では、

などが国内外の規格で厳密に決められています。

局所吸収指針

携帯電話等の身体に密着して使用する端末に適用する。
任意の組織10グラムあたりの局所SARが2W/kg(四肢では4W/kg)を超えてはならない。

SARの測定

SARの測定は、人体と同じ電気的特性をもつファントム液剤を人体型の容器に入れ、その中をSARプローブで走査して行ないます。実際の携帯電話の使用状況を考えて様々な条件で測定し、その中で最大のSARの値を求めて評価します。

SAR測定システムは以下の3つで構成されます。

  • SARプローブ
  • ファントム
  • SARプローブ走査装置

ファントムの近くに測定する端末を設置し、実際に電波を放射した状態で、ファントム内部のSARを測定します。

標準頭部モデル

標準頭部モデル標準頭部モデル

測定には、大きさや形状などが標準として規格で定められた頭部ファントムを用います。このファントムに、人体の電気定数(比誘電率および導電率)と同じ特性をもつように調整されたファントム液剤を充填します。人体の電気定数は周波数によって異なるため、周波数ごとに液剤の組成も異なります。ファントム液剤の電気定数も規格により定められています。

SARプローブ較正

SARプローブ較正

SARを正確に測定するためには、プローブの較正が必要です。SARプローブの較正では、既知のSAR(電界強度)プローブの出力信号を関連づける較正係数を決定します。較正システムでは、既知のSARを作るために特殊な導波管内部の電界理論値を用います。ファントム液剤の特性は周波数で異なるため、較正も周波数ごとに行なう必要があります。

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NICTの取り組み

NICTでは、SAR測定の誤差要因や高精度化に関する研究を進めています。また、新しい無線システムに対するSAR測定技術の研究も進めています。さらに、SARプローブの較正手法の改良や将来携帯電話に使用される新しい周波数帯における較正方法の開発等も行なっています。これらの研究を通じて、高精度で信頼性の高いSAR測定技術の確立を目指しています。

VHF帯における電波防護指針適合性評価に関する研究

VHF帯における電波防護指針適合性評価に関する研究

本研究の目的は、VHF帯における電波防護指針適合性評価における足首誘導電流評価用の液剤型人体等価アンテナを開発することです。この周波数帯では、全身共振という現象が起こり、人体があたかも共振しているアンテナのように振る舞います。このとき、人体が地面に直立している場合に、足首に大きな電流が流れます。他の部分に比べて断面積が小さい足首に集中して電流が流れるため、そこでの局所SARが最大となることが知られています。

日本の電波防護指針においては、30MHzから300MHzまでの周波数で測定された足首における誘導電流が、片足当たりで45mA以下でなければなりません。

NICTでは、足首誘導電流を測定する際に使用する人体等価アンテナについての研究を進めています。人体等価アンテナを用いた足首誘導電流の評価方法では、人体を直接電磁界に曝すことなく、電波防護指針への適合性を評価できます。NICTで開発している液剤型人体等価アンテナは、液剤の高さを人体の身長に合わせて調整するため、大人および子供の足首誘導電流の評価が可能です。なお、この人体等価アンテナに充填される液剤は、容易に電気定数の変更が可能で、人体等価液剤としてしばしば利用されている食塩水を用いています。

  • 高精度な曝露評価技術に関する研究 −数値人体モデルの開発−
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